\錦2丁目 SDGs WEEKs 2023〜七番SDGsトークプレイスレポートその②/

本漆と金継ぎで捨てない選択

日時:2023年11月3日(祝金)16:00-17:30
会場:スペース七番(スペース2+3)
【ゲスト】宮城杉乃(漆芸家/「SUGY」デザイナー)
【運営】錦二丁目エリアマネジメント株式会社/「なごや環境大学」実行委員会

■概要
喫茶七番で割れたり、ヒビが入ってしまったりしたカップや器は金継ぎでお直しをして再び使用しています。そんなお直しをしてくれている、漆芸家であり、本漆と金継ぎを使ったアクセサリーや装飾のブランド「SUGY」として活躍する宮城さんと一緒に、漆と金継ぎの奥深い世界の話からリペアの大切さを話し合います。


11月3日金曜日、錦2丁目 SDGWEEKsトークプレイス企画の最後に取り上げたのは、割れたり、欠けたりして使えなくなってしまった食器を再び蘇らせる、リペアの方法「金継ぎ」。漆芸家であり、自身で漆のアクセサリーブランド「SUGY」を展開するデザイナーの宮城杉乃さんをお招きして、漆と金継ぎの世界とリペアの大切さについて参加者の皆さんと意見を交わしました。

 

1)漆について


名前からは想像しづらいですが、金継ぎも漆芸の一つ。
そこで、まずは漆、そして漆芸についての基本的な知識からおさらいしていただきました。

そもそも漆とはどのように採れるのでしょうか。実はその方法は非常に原始的で、木の幹にかぎ針のようなもので一つずつひっかき傷をつけて、傷口から樹液をとります。
一方、外国では効率上の問題から、ゴムの樹液をとる時と同じような要領でV字に傷をつけ、そこに受け皿を差し込み、一度にたくさんの漆を採取する方法が用いられています。

しかし、この方法では一度にとれる樹液は多いけれども木へのダメージも大きく、不純物も混ざりやすい為、漆の臭いや質に影響が及んでしまいます。
そこで、国内の漆産地では一つ一つ丁寧にかぎで傷をつけて樹液をとる、「漆掻き」という方法が選ばれており、希少で上質な漆がとれるとのことです。

中でも興味深かったのは、漆の産地と漆芸の発展する地域は異なるということでした。植物の特徴より、漆は比較的寒い地域(国内では福島県、秋田県)で育ちますが、漆芸は沖縄や京都といった、高い気温と湿度を備えた地域で発展しています。これは、漆芸の過程で漆を乾燥させるために、高温多湿という気候条件が必要となるからだといいます。

 

2)琉球漆芸の歴史


続いては、宮城さんが大切にする琉球漆芸についてです。
琉球漆芸のはじまりは琉球王国が栄えた時代にさかのぼります。
かつては中国の王朝や国内の将軍に献上する質の高い工芸品として生産されていた漆芸は、琉球王国を支える一大産業でした。その高い質を保つために、王国公認の奉行所もあったほどだといいます。

しかし、大量生産・大量消費の時代になると、時代の風潮によって効率を重視してしまった結果、粗悪品を流通させてしまい、琉球漆芸のブランド力が低下。かつては、王国の一大産業であったにも拘らず、漆芸を担う会社が次々と失われ、現在では1,2社ほどしか残っていないといいます。

また、漆と顔料を練り合わせた「堆錦餅(ついきんもち)」と呼ばれる餅状の材料を薄く伸ばし、それぞれの文様に切り取り、器物に貼り付ける堆錦(ついきん)という技法も有名です。この技法は、特徴的な漆の薄さを乾かすことのできる、安定した高温多湿という気候条件が沖縄でしか適わなかったので、沖縄でのみ発展した芸術だといいます。

 

3)金継ぎについて


そして、いよいよ金継ぎについてです。
金継ぎは、漆を接着剤として使い、その上から金や銀粉をのせていくことで、割れや欠けができてしまった部分を補修する技法です。漆は他の材質と混ぜることも可能で、和紙や麻といった自然成分と合わせることで、質感や強度に変化を持たせることもできます。
喫茶七番で使われているマグカップも、持ち手とカップの接合部分は重さの負荷が集中する部分であることから、強度を高めるために麻布と合わせた金継ぎがなされています。

また、宮城さんは金継ぎを依頼された際、その食器が今までどんな料理をのせ、どのようにお客さんに出されていたのかという背景を汲んだうえで、修繕をして下さると言います。
ただ壊れてしまった“もの“と“もの“とをつなぐだけでなく、故障によって潰えてしまった食器の物語、持ち主と食器の間にある思いまでも繋いでくれているようで、金継ぎの持つ温かみがより一層増すようにも感じられました。

一方で、金や銀を施すということで、その輝きや艶の経年劣化を心配される声も少なくありません。
しかし、宮城さんは“変化”を“劣化”とイコールで結ばずに、もっと前向きに捉えていく気持ちが広まると嬉しいと語っておられました。
そして実際に、ひびや欠けを線状に継いだ部分は「景色」と呼ばれます。
時間とともに景色が変わることを楽しめるのと同じように、輝きを「維持」することだけに価値を見出すのではなく、ものが自然に変化していくことにも同等の魅力を見出し、さらに人々の価値観が柔軟で広いものになっていけばよいなと感じられました。

 

4)これからの展望


宮城さんは大学で漆芸を学び、そこで漆の奥深さと、漆芸にかかわる人々の熱意に魅せられ、漆芸家の道を志したといいます。しかし、その一方で、長い伝統によって凝り固められた世間の漆に対するイメージが、「器」や「高価なもの」という、一面的なものに留まっている現状を非常にもどかしく感じたといいます。

そこで、そんな漆のイメージを変え、もっと多彩なアプローチで漆の魅力を広めたいという思いから、日常使いとは程遠いイメージのある漆で、日ごろ使えるアクセサリーを作れないかと思い立ったそうです。自身で立ち上げた「SUGY(スギー)」というブランドで、現在はピアスやイヤリング、ネックレスの販売をはじめ、男性でも楽しめるバングルやリングの制作も視野に入れているといいます。

また、さらなる試みとして、漆と相性の悪いガラスの金継ぎを挙げています。
元々、成分の都合から、ガラスに人工的な接着成分を用いない本漆のみで金継ぎを行うことは不可能でした。そして、芸術家として純粋な本漆に深い愛情を持つ宮城さんにとっては、人工的な接着成分を使った漆を食器に扱うことは、安全上の理由からも抵抗があったと言います。

しかし、近頃、食器への使用を認める安全基準をクリアしたガラス用漆が開発されたことと、金継ぎが可能になれば救われる食器やグラスがたくさんある現状から、実験的にガラスの金継ぎも試みてみようかという、心境の変化があったとおっしゃっていました。
 


■感想
ひびや割れとは、本来あらゆる「もの」をマイナスにしてしまうものであり、それを再び元通りにしてゼロ地点に戻すのが、修理だといえます。しかし、金継ぎはそれだけで留まらず、修繕された器に新たな魅力を上乗せし、プラスの状態で返せるというのが、唯一無二の魅力であるように思われました。
さらに、新しく纏ったその魅力は、時間とともにゆっくりと変化していきます。元の形を保つだけでは感じられなかった、これからの楽しみが上乗せされるのです。お気に入りの器や陶器が割れてしまったとき、それは間違いなく「ショックな出来事」になるでしょう。
しかし、金継ぎには、その瞬間をラッキーな「きっかけ」だとすら感じられる力があると思われました。金継ぎは、器が割れてしまったとき、人々に「捨てない選択」を可能にすること。そして何より、それは「直す」という「修繕作業」を超えた一種の「芸術」になれること。この素敵な「捨てない選択」が、自分だけでなく環境にも優しいものだと、社会に広く認知されるよう、願う気持ちでいっぱいです。(喫茶七番スタッフ – 野口はるか)